高校3年生のKくんが5月に来店した時の話です。
高校入学してから始めた陸上部に入部して間もない頃に、3年生の終わりまでに11秒5を切るのを目標にして、自らトレーニングメニューを考えて試行錯誤しながら努力していて、私はいつも彼をリスペクトしていた。
そんな彼が高三になって受験をして大学でも陸上を続けていきたいと言った。どこか行きたい大学はあるのかと聞いてみると、N大に行って陸上をやりたいと言う。勉強しているのか聞くと、あまりできていないと言う。だからまあ行けてN体大でもいいと言った。
私はなんだか、ふに落ちない気分になった。なぜなら、かれが目標を決めてそこに向かう姿勢と努力は普通の子にない熱心さがあったのだが、こと大学受験に対してはそれが一切感じられなかった。
私はなぜか切ない気持ちになった。
11秒5の目標を掲げたように、大学を受験するのもただなんとなくするのではなく絶対にここの大学行く理由をもつ事が大事なのではないかと思い、私は彼にひとこと伝えた。
君はきっとN大もN体大も受からないと思うよ。
なぜなら、11秒5の時みたいに君にはここの大学に行って何をすると言う目標を持ってないから、だから、勉強できないんしゃないかな。
君が心の底から望むものがあれば、君はそれを叶える能力を、もうすでに持ち合わせているはずだ。
だから、今君がすべき事は勉強ではなくて、どこの大学になぜ行きたいのか、これを決めないから、勉強ができないのではないかな、それが決まれば、今までの部活の練習と同じで、自分で試行錯誤してどんどん勉強すると思うけどと話した。
彼は思慮して確かにそうかもしれないと言うような顔をした。
それでなんだけど、俺が君を見てきて思うに、君にとっても合う大学を一校知っているんだ、それはW大スポーツ科だよ。君が一番輝く場所だよ。
彼は、ポカーンとしてからイヤイヤ無理ですよと言った。
私はそれを全否定した。君がもしそこに行きたいと本気で強く望むなら、絶対に受かると思う。もう一度言うけど、本気で強く望むなら。
だから今日帰ったら各大学のホームページでも見てさ、ここに絶対に行きたいなと思う大学を決めてみたら、本気で行きたいと思ったら勝手に勉強してるよ。
きっと。
……
2ヵ月後に再び来店した彼。
久しぶり。どう行きたい大学決まったの?と聞くと彼は、照れ臭そうにW大に決めましたと答えた。私は大いに喜んで励ました。
あの後すぐにホームページを見て決意したらしい。それから彼は勉強が今までと比べ物にならないくらい、捗り、集中し、学び解くことが楽しくなってきたらしい。私はその凄い変化に驚いた。
何かテストみたいなもので成果を感じることはなかったかと聞くと。期末試験で2科目クラスで一番の点数を取ったと言う。私はこれには驚きを通り越して驚愕した。彼はなんと、40人のクラスで下から5番目だったのにだ。
こんな事があるのかと、本当に驚愕だ。
やる気。つまりモチベーションでわずか2ヵ月で人はここまで変われるものなんだと知った。私が想像していた以上の変化だった。
それから彼は2ヵ月置きに来店して、その度に成績が上がっていった。
ちなみに彼は塾には行っていない。自分で考えて勉強していた。それは陸上部の時と同じで、教わるのではなく考えると言うことだ。
彼は受験を迎える1ヵ月前に偏差値がついに60になった。8ヵ月前は25しかなかったのにだ。
W大スポ科に合格できる圏内に、十分入った。私もその可能性はあるだろうと思ってはいたが、たいしたものだ。彼はこの期間で変わった。W大は難関校であるから、彼が合格するかどうかはわからない。しかし彼がしてきたこの努力は、これからの長い人生でとても大きな自信と糧になるだろう。
Boys, be ambitious !